10月15日、東京レガシーハーフマラソン2023のレース終了後、大会関連イベントとして、「第2回パラ陸上教室 in 国立競技場」を開催しました。
この教室の目的はどんな障がいをお持ちの方でもスポーツの聖地である国立競技場のフィールドに立ち、アスリートが感じた興奮と感動を体験することで次の成長を育み、新たな夢を目指せる機会を提供することです。本教室は東京マラソン財団主催の東京マラソンや東京レガシーハーフマラソンのチャリティを通した「スポーツレガシー事業」への寄付金を活用し、昨年につづいて2回目の開催となりました。
朝から降り続いていた雨もすっかりあがり、秋晴れの空の下、国立競技場の赤いタータントラック上にはサンライズレッドカラーの東京レガシーハーフマラソン2023チャリティTシャツに身を包んだ53名の参加者とパラスポーツの指導者やアスリートたちが集いました。なかには、車いすランナーの鈴木朋樹選手(トヨタ自動車)や土田和歌子選手(ウィルレイズ)など、この日午前中に開催された東京レガシーハーフマラソン2023を完走したばかりの多くのトップアスリートたちの姿もありました。


■レーサー(競技用車いす)で、非日常の疾走感!


教室は今年も小学生以上の障がいのある人で陸上に関心のある方を対象に、障がいに応じた異なる3つの教室を実施し、それぞれ経験豊富な指導者やアスリートたちが講師を務めました。どの教室も定員に近い盛況ぶりで、パラ陸上や教室の浸透度が感じられました。
車いす利用の人を対象とした「車いす陸上教室」はレーサー(競技用車いす)でトラックを走る教室で、今年は18名が参加しました。大小さまざまな貸出用のレーサーも用意され、指導は日本パラ陸上競技連盟常務理事でパラリンピアンの花岡伸和さんらが担当し、日常用車いすからレーサーへの乗り換えや乗車姿勢を微調整する方法から、車輪のこぎ方や速く走るコツなどを伝授していました。
ある程度、乗れるようになったら、いよいよ国立競技場のトラックでランニング体験です。スタートラインに並び、鈴木朋樹選手による「レディ、ゴー!」という掛け声を合図に、順番にスタートを切る参加者たちは土田和歌子選手のエールも力に、車輪をこぐ手に力をこめ、トラックを何度も往復しました。
レーサー(競技用車いす)を走らせるときの真剣な眼差しと、走り終えた時の晴れやかな笑顔のギャップは、スポーツの魅力をダイレクトに伝えてくれます。
小学3年生の娘さんのレーサー体験を見学していた東京在住の男性は、「昨年参加された方の紹介で、今年初めて参加しました。娘が楽しそうに(レーサーに)乗っているのを見て、親としても嬉しいですし、娘の可能性をさまざま感じることができました」と目を細め、この教室がチャリティ事業の一環で実施されていることについては、「(皆さんの)寄付金のおかげでこうした教室が開かれるのは大変ありがたく、意義あることだと思います」と感謝されていました。
■未知のスピード感を堪能、フレームランニング


脳性麻痺の人を対象とする「フレームランニング体験会」も行われました。フレームランニングは姿勢やバランスの維持が難しい人でも安全にランニングができ、今後はパラリンピック正式種目への採用も検討されている新競技です。3輪自転車に似た乗り物を使いますが、ペダルはなく自身の足で地面を蹴るようにして進みます。
指導は昨年につづき、日本パラ陸連の平松竜司理事らが行い、参加者5名それぞれの身体状況に応じた適切な乗り方や脚の動かし方など丁寧に指導していました。
スタッフの一人、T63(片大腿義足など)の現役アスリート、手塚圭太さんは日本パラ陸連の普及・振興委員会委員の一人でもあり、フレームランニングの普及活動にも関わっています。「競技の普及には競技人口が増えることが不可欠なので、こうした体験会などはとても重要です」と強調。実際、教室の参加者数は昨年の3名から増え、手ごたえを感じました。
「僕もそうですが、国立競技場は陸上選手にとっては憧れの場所。参加者にはいい刺激になっていると思います。楽しそうな表情を見て、僕もワクワクしています」と話してくれたのは7月の世界パラ陸上選手権でT37(脳性麻痺)男子円盤投げ4位入賞の新保大和選手(アシックス)です。スタッフとして参加し、参加者たちの挑戦にエールを送っていました。
参加者の一人、中学生のフレームランナーへ感想をお伺いすると、「レーサーには初めて乗りました。脚で走るより、すごいスピードが出て楽しかった。またチャレンジしたいです!」と声を弾ませました。
挑戦を見守っていた母親は、スポーツ教室などへの参加は他者との交流も必須なため、「社会的マナーも身につき、心の成長にもつながります」と言います。また、脳性麻痺の人の場合、麻痺の状態は人それぞれでスポーツ参加にも個別対応が必要ですが、ご自身が理学療法士であることから、「この教室はトップアスリートへの指導経験のある方が指導されているので、個別に適切で専門的なアドバイスを受けられるので安心してお任せできます」と話されていました。
■走るって、楽しい!




「知的障がい・ダウン症の人向けの陸上教室」は今年もヤマダホールディングスから陸上競技部の田中宏昌監督らが指導を担当。30名の参加者に向け、動きづくりや速く走るコツなどを言葉での説明だけでなく、講師の皆さんが自らお手本となって動くなど丁寧に指導しました。
なかには見よう見まねが難しかったり、思うように動けない参加者も見られます。それでも、それぞれのスタイルやペースで楽しそうにチャレンジしている様子が印象的でした。
昨年につづいて講師を務めた安部孝駿さんは東京オリンピック後に現役引退したハードラーで、現在はヤマダホールディングスで競技の普及活動や陸上教室などに関わっています。「自分自身が東京オリンピックで走った国立競技場で、障がいのある人たちと陸上競技を通じて交流できることは特別な感慨があります。これからも障がいの有無に関わらず、多くの人に陸上に関する自分の経験や知識を還元していきたいです」と指導者としての参加理由を語ってくれました。
安部さんはさらに、障がいのある人に対する指導については「自分はまだ経験不足」と話しつつ、「正しい動きを行うことも大事ですが、まずは『走ることは楽しい』という思いを参加者の皆さんが体現してくれていましたし、その姿から私自身も改めて、『楽しむことの大切さ』に気づかされました」と振り返りました。
どの教室でも笑顔があふれ、参加者からは、「楽しかった」「大きなグラウンドで気持ち良かった」「来年もまた参加したい」といったポジティブな感想が聞こえました。




イベントMCと準備体操で教室を盛り上げてくれた本事業のチャリティ・アンバサダーで、ものまねアスリート芸人のM高史さんは、「何かに挑戦して『できた!』という達成感は自己肯定感につながります。この教室をきっかけに、障がいのある子どもたちにもスポーツ活動を継続してもらえたら」と教室の重要性を挙げるとともに、「子どもたちが『また挑戦したい』と、1年後を楽しみにできるような機会があることも大切です」と、イベントを継続させることの意義も強調していました。
日本パラ陸上競技連盟の増田明美会長は、「今年も開催していただき、感謝しています。(陸上競技の聖地である)国立競技場で走れて、参加者は嬉しいと思います。この教室からパラリンピアンが誕生してほしいですね」と期待を込めていました。
これからも、チャリティランナー・寄付者の皆さまからのあたたかいご寄付をスポーツレガシー事業を通じて有効活用させていただき、パラスポーツの普及・発展に寄与していきます。
東京マラソン財団がスポーツを起点として21世紀の社会に、後世につながる「レガシー」を遺していきたいという想いから始めた事業で、東京マラソンチャリティを通じて寄付者の皆さまよりお預かりした寄付金を、アスリートの強化・育成、スポーツ施設などの環境整備、スポーツ大会の支援などに活用しています。