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元競泳日本代表 一ノ瀬メイさん × 東京マラソン財団 早野レースディレクター
「初ハーフマラソン、走り切ったら何かが変わる気がした」新しい挑戦から見えてきた景色を語る—後編

2016年リオデジャネイロパラリンピックのパラ水泳日本代表として活躍した一ノ瀬メイさん。今大会ではアシックスのサポートを受けハーフマラソンに初挑戦! 早野忠昭レースディレクターとの対談後編では、スポーツを通して得られるもの、新しいことに挑戦することの価値、そして一ノ瀬さんと同じく今回初めてハーフマラソンに挑戦する皆さんへメッセージをいただきました。
■今まで知らなかった自分との出会い
――水泳を引退した後に様々な新しいことに挑戦してきた一ノ瀬さんですが、新しいことへの挑戦で得られたものは?

一ノ瀬13歳から日本代表に選んでいただいて、24歳で引退したときに気づかされたことは、スポーツを手放すことは同時にコミュニティやルーティン、自分と対話する時間など、色々なものも一緒に手放すことになるんだということでした。私は水泳を引退するということしか考えていなかったけど、実はスポーツの周りには価値のあるものがたくさん詰まっていて、走るとか泳ぐという動作以上に得られるものが本当に多かったんだなと感じました。だから、陸上を始めたときに、陸上のコミュニティが迎え入れてくれたことでまた新たな出会いがあり、人とつながりを持つってすごくありがたいことだと感じたんです。それは自分と対話することで得る自分とのつながりもそうだし、そのスポーツを通して得られるコミュニティでのつながりもそう。そうした“つながり”というものをいつもスポーツを通していただいている気がします。
――一ノ瀬さんとは全く別の立場の方でも何かを変えるきっかけにと思ってランニングを始めることで新たなつながりが生まれ、また別の新しい発見があるかもしれないですね。

一ノ瀬そう思いますね。やっぱり普段生活している中で会う人ってどんどん限られてくるし、でも結局、自分のことも周りの人を通して見ているじゃないですか。だけど、その自分を置く環境を変えたときに違う人たちを通して自分を見るから、今まで知らなかった自分に出会えると思うんです。特にマラソンって自分との対話の時間がすごく長いので、今まで知らなかった自分に出会えるみたいなところもすごく大きいなと思ったりします。
早野RD正直言いますと、僕らでも長い距離を走っているときに「膝が痛いからもう走れない」と言い訳を作ってしまう気持ちになってしまう。僕がレースディレクターとしてこんなことを言っていいのかと思いますが、自分で自分にウソをついてでもここで走るのをやめたいと思うことって、いっぱいあるんです。だけど、本当にそこを乗り越えたら何かが変わるんだということを、僕たちは『初ハーフマラソン。走り切ったら、何かが変わる気がした』というキャッチコピーを通して伝えたい。例えば大会ポスターのようにソファでお菓子を食べていた女性がエントリーする、それだけでもすごいことじゃないですか。きれいごとばかりじゃなく、それが本当の姿だと思うんです。だから、一ノ瀬さんがおっしゃっていることに僕はすごく共感しますね。
■挑戦する過程で得られるものがすでに価値あるもの
――一ノ瀬さんがハーフマラソンを走ることで伝えたいメッセージは何でしょうか?

一ノ瀬できてもいいし、できなくてもいいけど、やってみることから見えてくる面白さというものがあると思っています。それって、私が水泳を続けていても伝えられなかったことだと思うんですよ。私が速く泳げるのは当たり前。でも、そんな自分が全然違うことに挑戦するからこそ、かっこ良くなくてもいい。だけど、何かチャレンジしてみることって「楽しそう」と感じてもらえたらと思っています。私はとにかく楽しむことが仕事。もちろん自分の意思でやっているので、その過程も含めて全てを楽しみ切る。そうやって私が楽しんでいるところを見て「あ、なんか楽しそうやなぁ。いいなぁ」というライトな気持ちで人が動く――心もそうだし、実際に行動に移すという意味でも人が動かされるきっかけになったら、それはすごく幸せだなと思います。
早野RDいいですね。大会ポスターの女の子たちの代表として、とにかく楽しく走ってほしいですね。一ノ瀬さんがどのような形でフィニッシュ地点にいるのか、僕たちとしてはすごく楽しみです。

一ノ瀬もう一つ付け加えると、誰も私が公式プログラムの表紙になるなんて思っていないじゃないですか(笑)。みんながビックリすると思うんですよ、「え、水泳の子やん!」って。でも、その「水泳の子」ですら決めつけというか、その人の可能性を狭めているかもしれない。だから、大会のエントリーだって実質かかる時間は10分かもしれないけど、「水泳の子」がマラソン大会にエントリーするそのたった10分を境に自分の肩書とかアイデンティティとか分類というものを軽く超えられるんだということを伝えられるのかなと思っています。
早野RD表紙すごく楽しみですよね。僕も「陸上の早野さん」と決めつけられる以外の分野で、仕事を辞めた後にでも新しいことに挑戦したいと自分なりに考えていました。一ノ瀬さんはそういうことにすでに気が付いていて、しかもレガシーハーフマラソンという1万5千人ぐらいが走る場所で表現しようというのだから、多くの人も「え?」と思いますよね。それがすごく面白いなと思いますし、きっと新しい何かが彼女の中で生まれると思いますよ。
――では最後に、今年初めてレガシーハーフマラソンに挑戦する人、あるいは新しいことに挑戦してみたいと思った人に向けてメッセージをお願いします。

一ノ瀬私は今回、“過程を大事にする”ということを自分の中でテーマにしているので、それを皆さんと一緒に楽しむことができたらすごくいいなと思っています。新しい挑戦を実際にやってみて上手く行くかもしれないし、行かないかもしれない。私も今回フィニッシュできるかもしれないし、途中でバスに回収されるかもしれない(笑)。だけど、やってみる過程で感じること、出会う人、得たものがすでにすごく価値のあるものだと思うので、結果やフィニッシュすることに重きを置くのではなくて、一歩一歩の過程、今日、明日というその一つひとつを大切に、皆さんと一緒に前進できたらいいなと思っています。
早野RD新しい自分を発見すること・変わることは何歳になっても意義のあること。本当に結果にこだわる必要はありませんし、走り切れたら素晴らしいことですが、バスに回収されてもそれは新たなストーリーだと思います。それでいいんですよ。一ノ瀬さんにはそういうふうに気持ちを軽くして走っていただければと思います。
