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- 【後編】レガハへのチャレンジが誰かの新しい挑戦への後押しになってほしい
レガシーアンバサダー 入江陵介さん、一ノ瀬メイさん インタビュー

レガシーアンバサダーとして出場する元競泳⽇本代表の入江陵介さんと一ノ瀬メイさん。入江さんは今回が初めてのハーフマラソン、一ノ瀬さんは2度目の挑戦となります。オリンピック、パラリンピックという⼤舞台で活躍してきた二人の新たなチャレンジへの思いを大嶋康弘レースディレクターとの対談で語っていただきました!(以降大嶋RD、入江、一ノ瀬)
後編では入江さんがハーフマラソン初挑戦を決めた理由、東京2020大会後の社会の変化、そしてレガシーハーフマラソンにチャレンジするランナーの皆さんに向けてメッセージをいただきました。
■競泳引退後、新しいチャレンジのきっかけに
大嶋RD入江さんはなぜランニングに挑戦しようと思ったのでしょうか。改めて教えてください。

入江僕は引退会見で「マラソンに挑戦したい」と言ったから、こうしてお声がけいただいたのかなとも思うのですが、僕の中では競泳引退後の目標になるものとして“達成したいことリスト”のようなものを作っていたんです。そのうちの一つがフルマラソン完走。なので、東京レガシーハーフマラソンは新しくチャレンジするきっかけを与えていただいた大会だと思っています。10月20日に向けてどういった準備をしていこうか、どういったことにチャレンジしようかという新しい目標ができたことがすごくありがたいですね。僕自身、まだまだ走り込めていないので本当に21kmも走れるだろうかという不安もあるのですが、だからこそ楽しみですし、すごく頑張りたいなと思えるきっかけを今回いただけました。
大嶋RDもうトレーニングなどはしているのでしょうか?
入江はい、ジムで走っています。ただ、ジムのトレッドミルだと、自分の感覚と実際の走行距離や速度が若干ズレてしまうところがあるので、今後どんどん外で走って、どれくらいのペースだったら大丈夫かというのを確かめたいと思います。でも、僕自身はタイムを狙うようなポジションではないので(笑)、それよりも大会の雰囲気を楽しむことを大事にしていきたいですね。また、アンバサダーとして大会を盛り上げて、見てくださった皆さんに「次は私も走ってみたい」と思ってもらえるような形で走り切りたいなと思っています。
大嶋RD今回をきっかけに、次はフルマラソンも走ってみたいなと思いそうな予感はありますか(笑)。
入江それはたぶん、フィニッシュしたら何か感じる部分があるんじゃないかなと思います(笑)。フィニッシュした時に「これの倍の距離はもう無理だ」と思うのか、それとも「もうちょっと速く走りたいな」「次はフルマラソン走ってみたいな」と思うのか――今は分からないのですが、走り終わった後にどう感じるのかなという部分も楽しみですね。
大嶋RD3月には東京マラソンもありますから、その際にはぜひ(笑)。一方、現役時代に目標にしていたことと今回の挑戦、何か似ている部分などはありますか?
入江自分自身、競泳のプロ選手として活動していましたが、今回は出場する皆さんよりも走れないかもしれない初心者中の初心者。最初は皆さんもそうだったと思うのですが、最初からドーンと大きな目標は立てられないと思うんです。小さな目標を積み重ねて大きなものになっていく。ですから僕自身、今回の目標はまずは気持ちよく完走すること! その後、もしかしたら「来年はこのタイムを出したい」と思うかもしれないですし、そうなったら嬉しいですよね。そして、そこからどんどん目標が高くなって、いつかもっと競技レベルの選手になりたいと思うかもしれない。なので、今のところは目標を高くしすぎないようにしたいなと思っています。
■一ノ瀬さん、入江さんが感じる東京2020大会後の変化
――東京レガシーハーフマラソンは東京2020オリンピック・パラリンピックのレガシーを伝えていく大会でもあります。東京2020大会以降、日本社会の共生・多様性という面においてどのような変化を感じていますか?

大嶋RDスポーツが多様性や共生社会をリードする力になっているのを感じていますし、特にランニングは多くの人たちが簡単にできるスポーツですので「全ての人たちにオープンに」という思いで私たちは大会を運営しております。東京マラソン2025大会では性自認が男性・女性にとらわれないノンバイナリーのカテゴリーを設定し、脳性麻痺などで走ることが困難な人でも体験していただけるように、ランナーが押すバギーに乗っていただいて2人1組で参加するDUOというカテゴリーにもチャレンジしていきます。 ただ、海外と比べると日本の大会はまだ遅れている部分があると感じています。インクルージョンやダイバーシティなど人々の考えは随分と変わってきて、色々な方々に向けて「一緒にスポーツに参加しましょう」という呼びかけはできていると思うのですが、じゃあ、その参加した方々が本当に満足できる状況ができているか、あるいは本当に障壁を取り除こうとしているかというと、まだそこまでには至っていないように思うんです。東京2020大会後ももう少し、日本社会は努力する必要があるのではないかなと思っています。
一ノ瀬私が思う一番の変化は、まずオリンピックに並んでパラリンピックが語られるようになったこと。私がパラリンピックを目指し始めたころは誰もその存在を知らなかったのですが、これまでの先輩方の努力のおかげでもありますし、東京2020大会開催が決まった後のムーブメントの広がり、加速もあっての大きなチェンジだったと思います。ただ、現状は東京2020大会前に戻ってしまっているように感じていて、それは人の意識というよりは、東京2020大会という理由があったからできていたインクルージョン、ダイバーシティだったのかなとも思います。以前に逆戻りせず、パラスポーツがこれからも繁栄していくためには競技自体の面白さが広がり、ファンがつくことがすごく大事。最近では車いすバスケやボッチャなど「普通にスポーツとして面白いやん」ということに色々な人が気づき始めているので、その点は確実に東京2020大会によって加速したムーブメントだったなと思っています。
ただ、スポーツ以外の分野ではまだまだやれることがあると思っていてます。だからこそ私は引退した後、色々な形でやってみようと他の分野でも活動しています。東京2020大会以降、すごくいいチェンジもたくさんありましたし、一方でまだまだいけるやんと思うところもあるなと感じています。

入江パラリンピックとオリンピックが並んで盛り上がったのは、招致の段階から一緒になって取り組んだ結果だったと思います。ただ、一ノ瀬さんがおっしゃったように東京2020大会があったから盛り上がった部分もあったと思うので、その先も継続していくためには選手個々が新しいチャレンジをするなど努力も必要。東京2020大会の追い風を何となく受けたまま何もしないでいると、スポーツ全体としてこれからどんどん下火になってしまうと思います。「東京2020大会が終わってしまったから……」ではなく「東京2020大会をきっかけに僕は強くなれました」という選手が増えてくると嬉しいですね。
また、ジェンダーに関して言いますと、多様性と言われすぎてしまっているのではないかと・・・多様性という言葉自体は、いつかなくなっていかなければいけないものだと感じています。もちろん多様性を意識することはとても大切なことですが、いつの日か皆さんが何も思うことなく、それぞれ違うことが当たり前ということになっていかないといけない。ですから、多様性やLGBTQ+といった言葉もいつかなくなるような、良い方向に進んでいけたらなと思っています。
■多様性、共生社会におけるアスリートの役割
大嶋RD東京2020大会を通して、多様性や共生社会に関する意識は確かに高まったと思います。しかしながら、スポーツの環境や普段の社会生活において、どうすれば皆さんが満足できるのかを当事者の立場に置き換えて考えるまでにはまだ一歩及んでいないのかなと、僕の中では非常に強い印象として感じています。一方でそれは、新型コロナの影響もあって、東京2020大会が日本社会に与える影響としては実は半分にも満たなかったのかもしれません。では今後の社会におけるお二人の役割に関して、何か考えていることなどはありますか?

一ノ瀬私はメダルや結果のためではなく、その先の社会に対してどのような声を挙げられるか、どのようなチェンジを起こせるかということのための手段として水泳をやっていました。引退後もその手段が水泳からスピーカー、モデルというものに変わっただけで、私がやっていることの本質は全然変わっていないんです。現役時代はパラでやっている限り障害者というカテゴリーから出られなかったのが悩みだったのですが、引退してからは一人の人間、ただ片腕が短いという特徴がある一ノ瀬メイとして色々なことができる面白さを今は感じています。
パラリンピック、パラ水泳は自分を育ててくれて、声を挙げるプラットフォームをくれたもの。なので、その関わりはこれからも大事にしつつ、カテゴリーを持たずに一人の人間としてスポーツ以外の様々な分野に出て、切り開いていくことが出身地であるパラスポーツに対する恩返しでもあり、最大の応援なのかなと思っています。
入江競泳に関しては、海外ですとオリンピックとパラリンピックの選考会を一緒に開催するんですよね。日本ではまだまだ色々な弊害があって実現できていないので、競泳に限らずそうした大会が一つでも多く開催されるとまた変わってくるのかなと思います。そして僕は、みんなが一緒になってスポーツを楽しむということに意義があると思っています。勝ち負けや競争だけが全てじゃない大会は絶対に必要。僕自身、初めてハーフマラソンに出場しますが、こんなに年齢も性別も全く関係なく一緒に出場できる大会って素晴らしいと思うんです。 そうした大会、イベントが増えていくことによって、もっともっとオリンピックやパラリンピックの選手が近くなり、相乗効果につながるかもしれません。それがやっぱり東京2020大会以降は減少しているイメージがあるので、東京レガシーハーフマラソンを通して今一度そうしたことの振り返りや思い出すことが必要かもしれないですよね。
■今大会を通じて伝えたいメッセージ
――では最後に、大嶋レースディレクターにはレガシーアンバサダーの二人に期待すること、そして一ノ瀬さん、入江さんは大会をどのように楽しみ、何を伝えていきたいかを教えてください。
大嶋RD競泳選手である一ノ瀬さん、入江さんのお二人がハーフマラソンという新たなチャレンジに一歩踏み出すことが、まさに東京レガシーハーフマラソンのコンセプトに一番ピッタリ合っていると思います。我々としてもお二人の新しいチャレンジの後押しができればと思っておりますし、これをきっかけに次はフルマラソン、さらには100kmレースなど色々なことに挑戦していただきたいなとも思っています(笑)。また、ランニングだけでなくこれから新たな一歩を踏み出そう、チャレンジしてみようと思っている人たちの気持ちを少しでも後押しするような、そんなお二人になっていただきたいなと思っています。

一ノ瀬私はもともと本当に走るのが苦手だったので、初心者の方の気持ちがよく分かります。だからこそ私が大会に出場し、その道のりもそのまま赤裸々にシェアしていくことで「一ノ瀬メイちゃんがやれるんだったら私でもやれるかも」と思ってもらえる架け橋になれたらいいなと思っています。また、架け橋という点では私の周りには何かしらの傷病や体の違いを持っている人たちがいるコミュニティもあって、実際にこないだ「ハーフマラソン面白そう。興味あるんだけど」「じゃあ、車いすで出たら?」という会話が起きたんです。これってすごく意味があることですし、自分ができることなんだなと実感しました。なので、例えばパラスポーツ、障害のある人、同年代の女性といったコミュニティに向けて、ランとの等身大の向き合い方みたいなものを発信して、それが良い影響になればと思っています。

入江僕も初心者でまずは完走が目標になるのですが、そんなレベルでもチャレンジしていいんだと多くの人に思ってほしいですね。初めてのチャレンジって、皆さんどこか高いハードルを自ら課してしまうと思うんです。でも、実はチャレンジすること自体がすごくいいことで、たとえ完走できなくてもそれが一つのゴールだと僕は思っているので、そうしたことを伝えていくのが僕の役目だと思っています。自分自身、不安はたくさんありますが、目標に向かってチャレンジしていく過程を楽しんでいるところも見ていただきたいです。そして「来年は自分が走ってみようかな」「フルマラソンに挑戦してみようかな」と、色々な人が何かを思えるきっかけになれるように自分も頑張っていきたいです。
大嶋RDありがとうございます。体調には本当に気を付けて、10月20日はぜひ楽しんでください!
